クロユリハゼの休日

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#141 〝やまと尼寺〟から音羽三山へ

f:id:kuroyurihaze:20201101214341j:image奈良、音羽三山。桜井市を通過するたびに見えるその美しい山容が登高欲をそそる。その登山コースに、NHK〝やまと尼寺精進日記〟のお寺(音羽山観音寺)があることを知り、モチベーションが上がった。f:id:kuroyurihaze:20201101214704j:image

麓にある観音寺の駐車場を起点に音羽三山を巡るコース。観音寺までの参道は、山寺の名に恥じない急坂。約1時間でお寺に到着。f:id:kuroyurihaze:20201101214416j:image

山寺の風情が好ましい石段を上りきれば右手にイチョウの大木がある。(樹齢600年、幹周り4.8m。この木を見るだけでも価値あり。)f:id:kuroyurihaze:20201101214441j:image

入山も拝観も無料。駐車場も無料なのでお賽銭を入れて本堂にも入らせて頂いた。ご本尊は千手千眼十一面観音菩薩

ご住職も丁度本堂に現れた。そして、ご住職手作りのジャムを直々に購入。f:id:kuroyurihaze:20201101214453j:image

お寺から音羽山に向かう急斜面を、ご住職が信者さんと拓いて桜を植樹されている。かなり上の方まで登山道を整備して最上部が万葉展望台と名付けられ、その景色がすばらしい。f:id:kuroyurihaze:20201101214516j:image

麓から展望台までが寺のプロジェクトの一環で地域おこしの役割を果たしている。番組は終了したが、自給自足のスローライフ〝やまと尼寺精進日記〟と合わせれば、なかなか骨のある総合的なプロジェクトだと感じ入った。

 

ご住職、すごいです。

 

展望台からそのまま登山道を登り、音羽山(標高851m)、経ケ塚(889m)、熊ケ岳(901m)を植林の中、稜線を歩き大峠から下山した。f:id:kuroyurihaze:20201101215101j:image経ケ塚山頂↑f:id:kuroyurihaze:20201101214742j:image

          (行動時間6時間)

 

 

 

#140 伯母子岳〝遊歩道〟

高野龍神スカイラインから奧千丈林道は稜線に沿って東に伸びている。伯母子岳へ向かう〝遊歩道〟入り口はすでに標高1230m。

        歩行開始。

〝遊歩道〟と言っても勿論、ニュータウンにあるような遊歩道ではない。

 

先月登った曽爾村の兜岳と鎧岳の登山道も、村のパンフには〝遊歩道〟と紹介されていたが、険しい登山道は決して〝遊歩道〟ではない。ニュータウンの〝遊歩道〟をイメージして行った人は撤退かサバイバルをすることになる。(→#130参照 https://kuroyurihaze.hatenablog.com/entry/2020/09/22/192332

 

さて、伯母子岳〝遊歩道〟はというと…。

f:id:kuroyurihaze:20201025213959j:image植林の中の稜線歩きをイメージしていたがさにあらず。

ずっとブナやカエデなどの自然林を稜線に沿って歩く片道5km余りのコース。f:id:kuroyurihaze:20201025213618j:imagef:id:kuroyurihaze:20201025213710j:image大半が〝遊歩道〟と呼べる道幅があり、看板に偽りなし。もちろん、小さなピークを幾つか越すのでアップダウンはあるし、伯母子岳への最後、距離にして600mの急登だけは普通の登山道で〝遊歩道〟とは呼べない。

f:id:kuroyurihaze:20201025213807j:imagef:id:kuroyurihaze:20201025214254j:image標高1344mの山頂は展望がすばらしく、見える景色の全てが山また山である。大峰山脈を西側から見る機会になった。

f:id:kuroyurihaze:20201025213849j:imageさらに東、伯母子峠に下ると世界遺産熊野古道小辺路〟に合流する。(伯母子岳遊歩道は熊野古道のイメージに近いかも。)小辺路を少し歩いてから伯母子岳の北側を巻いて再び〝遊歩道〟に合流し、元の道を戻る。

歩数計で25000歩を超えるアップダウンのある歩行。結構きつい〝遊歩道〟だった。

          [行動時間6時間]

f:id:kuroyurihaze:20201025214039j:image↓奥千丈林道。舗装している。f:id:kuroyurihaze:20201025215059j:image

 

 

#139 ニコライ・カプースチン[1937-2020]

TV番組の追悼企画で知った作曲家・ピアニスト。

〝ジャズとクラシックの融合〟との触れ込みだったのでアメリカ人と思いきや、ロシアの人。ソ連時代のモスクワ音楽院出身でアシュケナージと同期だという。アシュケナージと違っているのは、音楽院卒業後にジャズバンドに所属したこと。驚いたことに、米ソ冷戦時代にもかかわらずソ連に〝国立〟のジャズバンドがあったのだ。(そういえばショスタコービチにもジャズ風の曲があったっけ。)

カプースチンピアノ曲は僕が聴く限り〝ジャズ〟である、超絶技巧の。但し、カプースチンの曲は即興ではなく全て完璧な譜面として作曲されている。いわゆるクラシックのピアノ曲と同じく、カプースチン以外のピアニストは譜面通りに弾いてカプースチンの〝ジャズ〟を再現できるわけだ。(辻井伸行もアンコールでカプースチンの曲を弾いている。)

TV映像ではカプースチンの自筆譜が映されていた。細かい音符が無数に繰り出されているというのに、まるで出版譜のような美しさ、丁寧さ。出版譜があるので、複数の演奏CDが発売されている。f:id:kuroyurihaze:20201024000055j:image

 

ジャズピアノの即興演奏というと、昔、キース・ジャレットのライブ盤を買ってよく聴いていた。f:id:kuroyurihaze:20201024000249j:image↑これはレコード三枚組のライブ盤。ピアノ・ソロの本当の即興演奏なので冗長に聴こえる部分があるのは致し方ない。キース・ジャレットには他に〝ケルン・コンサート〟というライブ盤があった。(こちらの方が冗長さが少ない。)

キース・ジャレットのことを思い出していたら、ちょうど新聞記事が…。f:id:kuroyurihaze:20201024001132j:image

…そうだったのか。

 

Amazonカプースチンピアノ曲を探して、一番価格の安いCDを買ってみると…。

懐かしの〝ナクソスNAXOS]〟レーベルだった。

メジャー・レーベルのクラシックCDが3,000円前後だった頃、東欧の地方オケや実力はあるがスターではない演奏家を登用して、あらゆるクラシック曲を廉価に普及することを目指した香港を拠点としたレーベル。経営者はドイツ人のようで、MADE IN GERMANY だ。

 

専ら車の中で運転中に聴いているカプースチン。1980年代に作曲されたピアノ・ソロのための計32曲。やっぱり僕はジャズとして聴いている。冗長さのない即興ジャズのように…。f:id:kuroyurihaze:20201024002907j:image

 

 

 

 

 

 

#138 丹波修験道の山

丹波篠山、多紀連山へ。小金ヶ岳と御嶽(三嶽)の二山を周遊した。登山道の案内板によると丹波修験道の行場だったそう。行場らしく登山コースも一部は急峻な岩場を通っている。

 

まず、小金ヶ岳へ。流れの細い暗い沢道を何度も徒渉しながら登る。アケボノソウを何度も見かけた。f:id:kuroyurihaze:20201018194101j:image

 

七合目に修験道の寺院跡(福泉寺跡)。御嶽の七合目付近にも寺院跡がある。

丹波修験道平安時代末期から中世にかけて奈良の大峰修験道を上まわる隆盛を誇ったそうだ。しかし両者は対立し、15世紀末に大峰修験道の僧兵によって襲撃され、滅ぼされたそうだ。あな恐ろしや、共存できないもんだろうか。寺院跡の巨大な栗の木の下に〝いが栗〟がたくさん、絨毯のよう。f:id:kuroyurihaze:20201018194829j:image

小金ヶ岳山頂周辺は険しい。岩や木を掴んで登下降、要所に鎖が設置されている。f:id:kuroyurihaze:20201018195244j:image
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大垰まで下り、御嶽(三岳)まで小一時間かけて再び急登。f:id:kuroyurihaze:20201018195631j:image長い階段は太腿にきつかった。下山は寺院跡(大岳寺跡)を過ぎると尾根に沿ったなだらかな道となり、ときおり展望が開けた。f:id:kuroyurihaze:20201018200342j:image            ↓小金ヶ岳
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          [行動時間6時間]

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#137〝作善〟という行為

再び、ハルカス美術館〝奇才 …江戸絵画の冒険者達…〟展。(前回は#133 絵金の芝居絵屏風 https://kuroyurihaze.hatenablog.com/entry/2020/10/03/224139

土佐の絵金の他に注目したのが、狩野一信の〝五百羅漢図〟。f:id:kuroyurihaze:20201017161710j:image

徳川将軍家菩提寺である芝・増上寺に納められた全百幅の羅漢図(一信は96幅まで描いて亡くなり、残り4幅は妻と弟子が納めた。)は、10年程前に江戸東京博物館で全百幅が公開され話題となった。

今回は前後期でそのうちの6幅が展示された。以前、どこかで観た時は作品のグロテスクさに馴染めずあっさり通り過ぎたのだが、今回は惹きつけられて鑑賞した。ハルカス美術館の展示は、作品にかなり近い位置から細部までじっくり鑑賞できるのだ。f:id:kuroyurihaze:20201017161741j:image

〝五百羅漢図〟の何がグロテスクかというと、羅漢の顔の輪郭や表情が気持ち悪く、彩色もくすんだ感じ。なので、もし全百幅を続けて観たら吐き気がするかもしれない、と思っていた。

ところが今回至近距離で一幅ずつ観ると、細部まで実に丁寧に描きこまれているのが分かり、感心してしまった。一幅ごとのテーマやストーリーに沿って様々な工夫があり、新しい手法にも挑戦している。今回展示の作品には、月明かりをバックにした羅漢に思いがけない陰影法が使われており、特に目をひく。それに、百幅を目指して創作に打ち込んだ一信の精神力はいかほどのものだったのか。

 

監修の安村敏信氏が図録で〝作善〟について述べている。

 

狩野一信は、五百羅漢図製作にあたって〝作善〟という宗教的心情をバネに精神を集中し、質の高い創作を持続させたという指摘である。

〝作善〟という観点で見ると、あの伊藤若冲動植綵絵〟も全30幅を相国寺に納めるために創作をしている。一信も若冲も、宗教的心情や使命を感じて創作にあたり、質の高い作品群を遺した。そのことを〝作善〟、すなわち、宗教的対象に善を成す為の作業を怠りなく行うという言葉で表しているようだ。

 

音楽でも思い当たることがある。

 

例えば、バッハの〝作善〟。バッハは教会のオルガニスト・作曲家として、教会のため(神のため、信者のため)に音楽を創った。バッハの音楽は背後に数学的な調和や哲学的(神学的)な世界を感じる。作曲と演奏、この両者がバッハにとって〝作善〟ではなかったか。

 

ブルックナーの長大な交響曲。無数の音符を愚直に書き込んで重ねていく行為そのものに驚く。また、ブルックナーの音楽はメロディーをメロディーと感じさせない何かがある。俗っぽいリズムやメロディーが突然現れたりするのだが、俗に堕しないバックボーンが感じられるのだ。僕にはわからないが、神に対する誠実さのようなもの。これもブルックナーによる〝作善〟ではないか。

 

ヒトは宗教的心情によって、結果的に馬鹿なこともいっぱいするが、一信、若冲、バッハ、ブルックナーのように、常人には到達し得ない創造を生みだすこともある。

 

ヒトは具体の宗教的心情はなくとも、その心情に共感することがある。その共感力は、宗教的心情とは別物ではあるが、優劣なく近しいもののように思えるのだ。

 

#136 栗の実 @金剛山

エゾビタキ目当てで先週に続いて金剛山。曇り空の中、府営駐車場をスタート。今日は寺谷を遡り国見城址に立ち寄った後、ちはや園地の展望台へ。山頂一帯はお昼になってもガスの中。展望台でも周りの景色はガスで見えず、エゾビタキどころではない。しばらくするとガスが切れ始めて少し景色が見え始めた。動きを見せ始めたのはカラスの仲間のカケス。数羽が活発に飛んで展望台の直近にも現れた。

展望台の傍の栗の木がたくさんの実をつけている。登山道にも落ちたイガクリが目立つ。金剛山には栗の木が案外多い。実りの時期になっている。f:id:kuroyurihaze:20201011191852j:image

カケスは栗の実を嘴でつまんで飛び去っていく。その場で食べるのではなく、どこかに貯蔵する習性があるのだ。カラスの仲間の習性が、ここでは栗の実に適用されて、今はせっせと栗の実をゲットしては貯蔵場所に運んでいる。その一生懸命さが微笑ましい。生き物にとっては冬の備えをするのが秋なのだ。

ほんの一瞬、晴れ間ができたが、またすぐに奈良側からガスが上がってきた。エゾビタキはあきらめて展望台を後にしよう。下山は久留野峠を経て林道を下り府営駐車場に戻った。

         [行動時間5時間]

↓オトコエシ? たくさん咲いている。

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↓キノコが成長する季節f:id:kuroyurihaze:20201011194641j:image
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↓右 吉野 高野、左 伊勢( ? )

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#135 大阪交響楽団リハーサル

オーケストラの演奏会は2月4日の読売日本交響楽団の大阪定期以来遠ざかっている。

(#14 山田和樹と長原幸太https://kuroyurihaze.hatenablog.com/entry/2020/02/04/232303

オケの演奏会はやっと再開されてきたが、コロナ感染防止対策のために座席数の制限があり、先日の大阪交響楽団の演奏会チケットは早々に売り切れ。しかし、前日の公開リハーサルに運良く立ち会えた。公開されたリハーサルはベートーベンピアノ協奏曲第3番。指揮は太田弦、ピアノが岡田将。

リハーサルとは言え、オケの生の響きの中に身を置く心地よさに心身共にリフレッシュ。〝オケはいいなあ。〟

リハーサルなので指揮者、ピアニストを含めて全員がラフな私服姿。雨の日だったのでレインシューズの楽員もいた。聴く方もリラックスできて良い。リハーサル自体は協奏曲ということで、時々ピアニストとオケのタイミングを合わせるくらいで淡々と進んだ。

リハーサル後に指揮者とコンマストークがあった。1994年生まれの太田弦が穏やかな口調で語るには、ベートーベンの自筆譜はとてもとても読みにくい。(つまり、ぐちゃぐちゃ。)なので、出版譜にも問題がある。そういう問題のある箇所をリハーサルで解決していたそうだ。

短い時間だったが、若い才能のある指揮者の本公演をいつかは聴いてみたいと思った。

 

昔、大阪フィルの公開リハーサルに立ち会ったことがある。天下茶屋の大フィル会館だった。指揮者は小林研一郎で、ベートーベンの交響曲5番のリハ。〝炎のコバケン〟と言われる小林研一郎が〝 〜していただけますか〟と、お公家さんのように丁寧な口調で楽員に指示を出していたのでびっくりした。

 

今年はベートーベン生誕250周年ということで、TVやFMでベートーベンの曲がよく流れている。この2、3週間だけでも交響曲は3,5,7,9番、ピアノ曲ピアノソナタ30番と〝月光〟、ディアベリのワルツの主題による変奏曲など、いずれも全部は聴けていないが、こういう節目の年はひとりの作曲家を聴き直す機会になる、たしかに。

 

 

【うた詠み】リモートの音に馴染めず夏は過ぎちろろんろんとこおろぎを聴く