クロユリハゼの休日

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#71 イーハトーボの劇列車

没後10年。井上ひさしによる戯曲。

昨年、こまつ座公演「イーハトーボの劇列車」を観て次のように書いた。

井上ひさしの戯曲を上演し続けている劇団こまつ座の大阪公演。二十代の頃、いくつか観たこまつ座公演のうち最も思い出深い戯曲。今回は宮沢賢治役を松田龍平が演じた。賢治の透きとおった言葉を散りばめながら、花巻の方言で進行する劇。演出[長塚圭史]が大きく変わっても、最小限の音楽、繰り出される言葉を客席が一体となってつかんでいく雰囲気を懐かしく思い出した。』

〝懐かしく思い出した〟というのは二十代の頃に観た〝イーハトーボの劇列車〟の方が強く印象に残ったということでもある。木村光一演出、賢治役を矢崎滋、父政次郎役に佐藤慶。父子の花巻方言による〝題目〟〝念仏〟論戦の場面は井上ひさしのユーモア感覚に包まれた圧巻の場面だった。今でも佐藤と矢崎の方言で蘇ってくるほど。賢治が実生活で関わった人々、農民の姿と、賢治の童話の世界の登場人物とが交錯しながら戯曲は進行する。この戯曲に魅せられた僕は書籍も購入して読んでいた。f:id:kuroyurihaze:20200427205139j:image

今日の朝刊の文化欄、〝今を照らす 井上ひさし〟に次のような記事があった。以下抜粋。

★…親交の深かった大妻女子大名誉教授の今村忠純さんは「無念の思いを残して死んだ人々への手向けの言葉」が井上文学の本領とみる。…

…今村さんは、創作から平和や憲法、日本語をめぐる論考までの足跡のうち、作家の特色を最も表すのは評伝劇だと指摘し、「イーハトーボの劇列車」(80年)をその最高峰に挙げる。「宮沢賢治への敬慕や、東北や農村の原点には音楽劇があると見通していたことも重要です。それも生死の間(あわい)にある農民たちが演じてみせる劇中劇、死者との対話は夢幻能。まさに発明です。」