クロユリハゼの休日

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#79 環日本海諸国図

f:id:kuroyurihaze:20200509221140j:image本棚に〝積ん読〟状態だった『網野善彦を継ぐ。』。表紙カバー図版に富山県作成〝環日本海諸国図〟が。

歴史学者網野善彦の一般向け講座の原稿を本におこしたのが『歴史を考えるヒント』。この本の中でも言及されていた〝環日本海諸国図〟、網野さんの言葉が印象に残っていた。〝…日本列島は決して孤立した「島国」ではない。…「孤立した島国」であるなどと言っているが、いかに地形を無視した無茶な捉え方であるか… …日本海はほとんど湖同然の内海です。…〟歴史学に新しい視点で数々の問題を提起してきた網野史学、一般書でそのエッセンスを知ることができる『歴史を考えるヒント』をわくわくしながら読んだことを思い出す。

まもなく、網野さんは亡くなられ、長大な追悼文として出版されたのが中沢新一著『僕の叔父さん 網野善彦』。私的な叔父・甥の関係は長期間の濃密な学問的交流を背景に、網野史学の成り立ちを生々しく伝えてくれる。と同時に、網野善彦を取り巻く人々、学者の生活のありさまが知れて興味深かった。

そして今回、〝積ん読〟状態だった『網野善彦を継ぐ。』。歴史学民俗学の間に切り込んだ網野史学が前例のない孤高の学問として、継承・発展の危機にあることを二人の学者の対談によって明らかにしていた。

f:id:kuroyurihaze:20200509221204j:image網野善彦をめぐる3冊、この3冊しか網野善彦関係の本は読んでいない。一方、この3冊があることで、網野史学は僕の中でひとつの小さな宇宙を持つことができたと思う。