クロユリハゼの休日

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#81 「僕、泳げる?いっしょに。」

〝羽仁進の世界〟と〝『人生を変えてくれたペンギン』〟の共通項をもうひとつ。※5/11のブログ参照。

トム・ミッチェルはアルゼンチンの全寮制学校の教師で生徒と共に寄宿舎に住んでいた。その中に、ボリビア出身でペンギンの世話を熱心にする生徒がいた。英語もスペイン語も達者でなく授業についていけないうえ、ラグビーを始め課外活動に得意なこともなく、消極的で仲間に入れない。極度のホームシックにかかってもいる。いわば、ペンギンだけが友達だった。ミッチェルが少年と二人で、ペンギンを初めてプールに放し、ペンギンがのびのびと泳ぐ姿を見て驚嘆していた。すると少年が、「僕、泳げる?(ペンギンと)いっしょに。」と。少年から初めて前向きな言葉が出て、ミッチェルは驚く。そもそも泳げるのか。ところがプールに入った少年はペンギンと共に自由自在に達者な泳ぎを見せた。少年は殻を破って、わずか数分で何年分もの成長を遂げた。この出来事をミッチェルは教師冥利に感じる。その後、ミッチェルの計らいで少年は水泳大会に出場し数々の種目で優勝し、仲間もびっくり仰天。自信をつけた少年は仲間の中に入り、学習やラグビーにも打ち込んでいく。ペンギンをなかだちにした生徒の成長の瞬間を観察する教師の視線がここにはある。

 

似たような視線が羽仁進にもある。子どもが自分でも気づかなかった力、その力を発揮する瞬間を捉えようとしたのが、羽仁進が学校で撮影したドキュメンタリーだ。「絵を描く子どもたち」の中に登場する少年。自信がなく、絵を描こうとしても描けない、大人への信頼も持たない孤独な少年が、教師や羽仁進が見守る中で信頼する大人を見つける。そして少年が脱皮する瞬間(少年が初めてガキ大将に向かって行く。)をカメラが捉えている。羽仁進はカメラマンに「今日、(少年は)ケンカするよ。」と予告している。子どもの内面を見つめる視線がある。ケンカの後、少年は色づかいも多彩にいきいきと絵を描くようになった。

 

羽仁進とトム・ミッチェル共通項は、子どもの内面、成長の瞬間を捉える視線。

 

ETV特集〝羽仁進の世界〟は再放送がある。おすすめ。f:id:kuroyurihaze:20200512122642j:image

 

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