クロユリハゼの休日

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#85 『鶴見俊輔伝』黒川創

f:id:kuroyurihaze:20200518220550j:image13年前に鶴見俊輔の講演を聴いた。すでに80歳代半ば。鶴見さんほど言葉に力のある講演は他にない。伝えたい中身と伝える気持ちがタッグを組んで会場の隅々まで音声として力のある声が伝わる。穏やかな語り口ではないが、ありがちな下品さのかけらもなく心に響いた。

 

その時の講演で最も心に残ったエピソードが、黒川創著『鶴見俊輔伝』のあとがきに記されていた。(あとがきを一番最初に読むからですが。)戦地で、自分ではない他の軍属に捕虜殺害の命令が下り、その現場を鶴見俊輔は最後まで見届けている。(講演を聴いた時の理解はこうだが、第二章を読むと殺害現場には立ち会っていない。)以下、抜粋。

 

※「戦争中、自分に捕虜殺害の命令が下っていたら、それを拒み通すことなどできただろうか?」

この自問は、戦後七十年間、彼の中で生きつづける。それを拒めたかは疑わしい。だからこそ、「敵を殺せ」と人に命じる国家という制度への憎しみと懐疑が、彼の中で消えずに残る。

状況のなかで考える……と、よく彼は言う。「状況」とは、歴史のただなかに身を置く、現在という場所のことだろう。※

 

評伝を読むのが好きだ。鶴見俊輔がどのような状況に身を置き人生を生きたのか興味がある。黒川創による『鶴見俊輔伝』、全五章からなる大部の評伝を読み始めたところ。

第一章「政治の家に育つ経験」は16歳まで。すでにここまでで鶴見俊輔の人生は僕の想像を超えることばかり。

                つづく(予定)