クロユリハゼの休日

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#100「あなたがあの時」

昨日は沖縄慰霊の日。式典で読まれた平和の詩「あなたがあの時」[首里高校 高良朱香音さん]、全文を読んだ。

ガマ(壕)での平和学習体験を場面設定にして、沖縄での戦争体験を語ってきた〝あなた〟の、その体験そのものに想像を巡らせるかなり長文の詩である。今ある〝わたし〟と戦時の〝あなた〟が二重構造の劇中劇のような構成になっており、朗読そのものも演劇的な効果を生み出していた。

僕は二十数年前から毎年のように沖縄を訪れている。沖縄へ行くことは、半分はレジャー、半分は沖縄の歴史、戦争と平和を考えること。

ガラビ・ガマ(壕)をボランティアにガイドして貰ったことがある。野戦病院として使われたガラビガマは規模が大きく、見学当時は確か通り抜けのコースが設定されていた。皆、懐中電灯を持っていく。途中、ガイドの指示で懐中電灯を消し、真っ暗な中でガイドさんの話を聞いた。また、ひめゆり祈念館の近くの畑にも小さなガマがあり、千羽鶴が懸けられた入り口から入ったことがある。

何回か通った座間味島の民宿の部屋には〝おばあ〟の、米軍上陸時に逃げまわった時の手記が置いてあった。島の展望台への道の脇に〝村長以下五十数名自決の地〟の小さな碑があった。シーカヤックで渡った無人島の安室島の砂浜では米軍の薬莢が残っていたり。

本島では、偶々乗ったタクシーで〝おじい〟のドライバーから戦争体験を聴いたこともある。その方は伊江島から本島まで、米軍の攻撃から逃れるために海を命からがら渡ったと。

かつては、嘉手納の基地の広大さに驚き、象のオリと呼ばれた読谷村の米軍通信基地、最近では普天間辺野古も見てまわった。

今なお日本とアメリカの二重構造の中にある沖縄。高良さんの詩にあるような〝現在〟と〝過去〟、あらゆることが、沖縄では二重に捻れて重なってくる。

 

「あなたがあの時」[首里高校 高良朱香音さん]、全文↓

 

「懐中電灯を消してください」

一つ、また一つ光が消えていく

真っ暗になったその場所は

まだ昼間だというのに

あまりにも暗い

少し湿った空気を感じながら

私はあの時を想像する

 

あなたがまだ一人で歩けなかったあの時

あなたの兄は人を殺すことを習った

あなたの姉は学校へ行けなくなった

 

あなたが走れるようになったあの時

あなたが駆け回るはずだった野原は

真っ赤っか 友だちなんて誰もいない

 

あなたが青春を奪われたあの時

あなたはもうボロボロ

家族もいない 食べ物もない

ただ真っ暗なこの壕の中で

あなたの見た光は、幻となって消えた。

 

「はい、ではつけていいですよ」

一つ、また一つ光が増えていく

照らされたその場所は

もう真っ暗ではないというのに

あまりにも暗い

体中にじんわりとかく汗を感じながら

私はあの時を想像する

 

あなたが声を上げて泣かなかったあの時

あなたの母はあなたを殺さずに済んだ

あなたは生き延びた

 

あなたが少女に白旗を持たせたあの時

彼女は真っ直ぐに旗を掲げた

少女は助かった

 

ありがとう

 

あなたがあの時

あの人を助けてくれたおかげで

私は今 ここにいる

 

あなたがあの時

前を見続けてくれたおかげで

この島は今 ここにある

 

あなたがあの時

勇気を振り絞って語ってくれたおかげで

私たちは 知った

永遠に解かれることのない戦争の呪いを

決して失われてはいけない平和の尊さを

 

ありがとう

 

「頭、気をつけてね」

外の光が私を包む

真っ暗闇のあの中で

あなたが見つめた希望の光

私は消さない 消させない

梅雨晴れの午後の光を感じながら

私は平和な世界を創造する

 

あなたがあの時

私を見つめたまっすぐな視線

未来に向けた穏やかな横顔を

私は忘れない