クロユリハゼの休日

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# 228 伊邪那岐命の悲しみ

昔むかし、中学生になって初めて美術の授業を担当してもらった小灘一紀(こなだいっき)先生が、今年度の日本芸術院賞を受賞された。f:id:kuroyurihaze:20230330220120j:image

当時の若き小灘先生は、無精髭にぼさぼさ頭、(絵の具で)うす汚れたグレーのヨレヨレ薄手コートのようなものをひっかけて授業をしていた。そんな〝こなだいっき〟先生のことを、誰が言い出したのか僕達は〝おならいっぱつ〟と呼んで、(あくまでも親愛の情をこめて)面白がっていた。小灘先生は美術準備室をアトリエにしているらしく、他の先生をモデルにして油絵を描いたりしていたらしい。

ある日(多分、小灘先生がお休みの日)、ある先生が授業中に、「小灘先生は結婚したので新婚旅行(台湾だったかな?)に行っている。」と発表。クラスは〝え〜っ⁈〟とどよめいた。みんな(先生達も含めて)〝おならいっぱつ〟と〝結婚〟の取り合わせに意外性を感じたのだ。

最初の頃の小灘先生の授業で、〝友達を写生する〟というのがあった。教室の中で絵を描く姿を、生徒同士でお互いに描く時間である。水彩絵の具で四つ切り画用紙に描いたと思う。授業中、ある生徒の作品を紹介する場面で小灘先生がコメントをつけたのを覚えている。「この絵のモデルの顔のバックがちょうど赤色で、モデルの顔が引き立っている。」と。芸術家はこういうことを考えて作品を創るのか、と思った。

当時の小灘先生の作品を堺市展(…だったと思う。たまたま父も出品していた。)で見たことがあるが、動物の頭蓋骨などを配した超リアルな静物画だった記憶がある。

それから半世紀の間に、お住まいの近くで一回、フランス料理店で一回、お見かけした。また、小灘先生の同僚だった方から、「小灘さんは毎日早朝出勤して始業前にデッサンしてたのよ。」と教えていただいた。

数年前に近くで小灘先生の個展があったので足を運んだ。風景スケッチのほか、大きな油絵作品は日本神話をテーマにされていた。別の個展でも日本神話の作品ばかりだったので、最近の小灘先生は随分と日本神話に魅かれているのだなあと思っていた。

今回の日本芸術院賞の受賞対象は〝伊邪那岐命の悲しみ〟。日本神話である。f:id:kuroyurihaze:20230330225936j:image