クロユリハゼの休日

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# 234 ベネディクトゥス幻想曲

山田和樹指揮の演奏会に行ってきた。

神戸文化ホール50周年ガラ・コンサート「神戸から未来へ」]f:id:kuroyurihaze:20230519180417j:image

彼が指揮を引き受けただけあって、独創とバラエティーに富む選曲・構成。メインは神戸出身の作曲家 大澤寿人が戦中(1944)に創作した宗教曲の演奏会初演である。(戦後、ラジオ放送二度あり。)80年ぶりの演奏会での初演ということになる。

このホールを拠点に活動する神戸市公設のプロ二団体、神戸市混声合唱団と神戸市室内管弦楽団が演奏を受け持つ。

ベネディクトゥス幻想曲はその名の通り、ミサ典礼文の〝ベネディクトゥス〟の混声合唱管弦楽にソロ・バイオリンを伴った曲。

欧米で認められて演奏会も開いていた大澤寿人が帰国した日本は戦中で、その音楽はまだ理解されなかったようだ。山田和樹の言葉を借りるならば、〝曲の内容と当時の日本とが一致しない、〟〝演奏する当てのない中で作曲する作曲家のバイタリティーは、ある種、やはり天才によるもの〟。当時の大澤寿人にとっては、演奏会で神や平安を謳いあげること自体が〝幻想〟だったのかもしれない。

この演奏会は「神戸から未来へ」と題されているように、先述の神戸市のプロ二団体の活動を未来に向けて紹介するという企画でもある。

合唱団のみの演奏で武満徹作曲「うた」より〝小さな部屋で〟〝見えないこども〟〝恋のかくれんぼ〟(全て無伴奏曲)、管弦楽のみの演奏で神戸出身の現代の作曲家 神本真理の〝暁光のタペストリー〟(委嘱初演)がプログラムされていた。

山田和樹は選曲にあたって「神戸から未来へ」のテーマから過去と現在にもこだわったと語る。それは、武満徹作曲の「系図」(少女による谷川俊太郎の詩の語りと音楽が絡み合いながら進行。)や児童合唱(こどもは未来を象徴する。)を含むプログラムにもみられる。

神戸出身の作曲家以外も全て日本の作曲家(武満徹山本直純、(岩城宏之:「系譜」の小編成編曲版)、信長貴富)の曲で構成して、作曲家も過去・現在・未来を意識しているところが彼らしい。

また、コロナ禍で縮小した児童合唱を応援したいとも語っていた。オケと児童合唱の先駆けとされる山本直純作曲「えんそく」(詞は阪田寛夫)で登場した特設合唱団は総勢66名。(数えました。)アンコールもオケと児童合唱による信長貴富作曲「未来へ」(詩は谷川俊太郎。オケ版は初演か?)と、こどもたちの声に励まされる演奏会だった。

 

神戸文化ホールは、学生の頃、男声合唱団の一員としてステージに立ったり、多田武彦の曲のレコーディングに参加した時のホール。45年くらい前のこと。f:id:kuroyurihaze:20230519215802j:image