クロユリハゼの休日

やま とり うた みる きく よむ うみ など

#22 穂高小屋番レスキュー日記

宮田八郎著 山と渓谷社 2019年

穂高岳には登ったことがない。何度か登りたいと思った。この本を読んで「やめとこ。」と思った。山小屋の従業員として働きながら、穂高周辺で遭難・事故があれば当然のように救助に向かう著者。穂高周辺では年間10名程の死者が出るという。救助出動はその何倍になるのか。ベテラン登山家であっても、稜線で子どもに道を譲るための何でもないような一歩の踏み外しで命を失う。雪の斜面で尻もちをついた次の瞬間に数百m滑落する場面を著者は目撃している。誰もが転落・滑落する直前までは、転落・滑落していない人なのだ。危険な岩場から遺体を小屋に収容して、続けて小屋従業員として登山客に夕食を配膳する著者の姿。生と死は山小屋ではごく近くで共存している。そんな生死の最前線に救助要請があれば必ず飛び出していくのだ。かっこいい。憧れの気持ちを持って一気に読了した。

…で、「やめとこ」と思ったのは。立ったまま靴下を履くことさえ危い今日この頃。もっとちゃんとしたら、また考えよう。

著者は一昨年、伊豆の海で命を落としている。