クロユリハゼの休日

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# 258 〝Y字路〟

【ワーイ★Y字路】展(横尾忠則現代美術館)

2000年から始まった〝Y字路〟をモチーフとした作品群のうち初期作品(〜2005)と最近作(2016〜)で構成された展覧会。

その第1作目、横尾の故郷(西脇市)、通学路でもあった椿坂の夜をインスタントカメラで撮影した写真を絵にした写実的な作品。この作品は初めて観た(と思う)。↓f:id:kuroyurihaze:20240324140223j:image先日のTVで横尾自身がY字路のモチーフについて語っていた。左右に分かれた道の先に消失点が二つあるのが面白く感じたという。昔のTVで漫才師のいとしこいしが「運命の分かれ道」と叫ぶ番組があった。Y字路のモチーフには〝運命〟や〝選択〟といったテーマが内在することが、横尾のライフワークともいえるシリーズに発展したようだ。

先程の場所と同じ場所、2003年の作品。↓f:id:kuroyurihaze:20240324141418j:image横尾は西脇市だけでなく各地のY字路も描くようになり、初期の『内省的な光と闇の世界から、祝祭的な色彩の爆発を経て、さらに変幻自在なバリエーションを生み出しつつ今日に至っています。(解説文から)』

2003年というのは、僕が横尾忠則の展覧会を追い始めたきっかけの年。高松市美術館舟越桂展を観に行った際に、常設展での横尾忠則のポスターと絵のコレクションに心が躍った。以後、Y字路シリーズの作品群に同時代人として接してきた。

横尾忠則の作品の特徴としては〝反復〟〝模写〟〝コラージュ〟がキーワード。Y字路シリーズにも過去何度も取り扱われたモチーフが自在にコラージュされていて、そこが横尾ファンにとっての楽しみのひとつになっている。↓f:id:kuroyurihaze:20240324150414j:image〝Y字路〟は、定型の構図、定型化された制作手順を獲得したうえでシリーズ作品を多産している。『Y字路というモチーフが貪欲なコラージュ表現を受け入れる下地=プラットホームへと変質しつつあることを物語っている。(解説文から)』のだ。f:id:kuroyurihaze:20240324151617j:image

 

先日、87歳の横尾忠則の現在に密着したドキュメンタリー番組を観た。難聴などで五感が鈍り、右手腱鞘炎で運筆ままならず、嘗てのような精緻な描写はできないと。それでも現在の作品群を〝朦朧体〟と名付けて〝できないこと〟も面白がっている様子。毎朝、自宅から自転車でアトリエに通って描き続ける日常を映していた。

番組で紹介されていた本と、同時期に出版された二冊の本を読んだ。f:id:kuroyurihaze:20240324154138j:imageどちらも87歳の横尾忠則の近況や心境を知れる本。どちらも似たような内容だが、『老いと創造』(講談社現代新書)が面白い。〝朦朧人生相談〟ということで、さまざまな悩みや問いに横尾忠則が答えている。…答えているのだけれど、結局、横尾忠則横尾忠則自身のことを語っている。相談に答える形なので、多角的に反復して語っていて、現時点での横尾忠則の考え方をより深く知ることができる。相談ひとつひとつに関連するような横尾作品が、横尾忠則現代美術館のスタッフによって選ばれている。各1ページのカラー図版で紹介されているので、横尾忠則の作品に初めて接する方にもオススメ。

 

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