クロユリハゼの休日

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#123 〝つづく〟 @兵庫県立美術館

きっかけは昨夏、青森県立美術館だった。

設立・運営のコンセプト、建築、展示企画、どれをとっても素敵な美術館。f:id:kuroyurihaze:20200829165416j:image

実際に訪れてみて、豊かな気持ちになれる大きな要素が美術館スタッフが着ている〝服〟だった。とてもシンプル。普段着のような、作業着のような、それでいて舞台衣装のような。いろんな顔を見せるオーガニックな風合いのスタッフ服。〝制服〟っぽさはない。

帰り際、美術館スタッフに尋ねると「みながわあきら、ご存知ですか?」と。皆川明の名前を知ったのが、この時。そこでデザインされ、つくられた服は、一つ一つが修繕もそこに戻され、余った生地で継ぎ接ぎされるたびに表情を変えるそうだ。こんな服を着て仕事ができる美術館スタッフ、いいよなあ、と思った。仕事への向かいかたまで変える〝服〟、美術館を訪れる人の思い出まで影響を与える、そんな〝服〟をつくる皆川明さんのことを知りたいと思った。

 

その皆川明のブランド〝ミナ・ペルホネン〟の展覧会〝つづく〟が兵庫県立美術館で開かれている。f:id:kuroyurihaze:20200829160347j:image
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NHK日曜美術館〟で紹介されたので、〝ミナ・ペルホネン〟の仕事、皆川明のこれまでの人生のアウトラインは掴めている。

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服飾業界のことは何も知らないが、〝ミナ〟の生地は、日本の織物、プリント、刺繍など、高い技術を持つ町工場と繋がって作られている。町工場の技術、生産を含めて、流行によって消費されることのない、環境にやさしい〝持続可能な〟生産と事業運営の理念を知ることができる。そして、〝職人〟の高度な技術の集積としての〝服〟の魅力を伝えてくれる。

皆川明はデザイン・スケッチで8Bの鉛筆を使うそうだ。自然の中にモチーフを見つけ、〝やわらかな〟鉛筆で描かれたスケッチが、生地に仕上がった時にどんな質感や色合いを出すのか、偶然性をも楽しむ遊び心溢れる想像力が〝ミナ〟の魅力のひとつだろう。f:id:kuroyurihaze:20200829164624j:image

この展覧会では、生地や服のデザイナーとしての皆川明とは別の姿が紹介されている。

連載小説の挿絵や、谷川俊太郎と組んだ絵本の原画は、〝ミナ〟のデザインとは明らかに異なる個性が発揮されていて、興味深い。f:id:kuroyurihaze:20200829164714j:image

人間・皆川明への興味が増す〝つづく〟展だった。f:id:kuroyurihaze:20200829170017j:image

皆川明の著作を、縦糸と横糸を織るような気持ちで読んでいる。青森から始まった関心は、展覧会のあともしばらく〝つづく〟ようだ。