クロユリハゼの休日

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# 162 楢山節考

この頃は、訃報に接する度にその方に纏わる記憶が呼び覚まされることが多くなっている。

 

坂本スミ子さんの訃報に接して直ちに思い出したのは、映画「楢山節考」。

 

今村昌平監督、1983年の作品。カンヌ映画祭受賞という話題もあって映画館に観に行ったと思う。いろいろな場面が記憶に残る数少ない映画作品でもある。

 

深沢七郎原作の姥捨伝説を題材にした短編を映画化したもの。貧しい村の人々や動物は、生々しい〝生〟として描かれ、臭いさえ漂ってきそうな映像だった。村の掟に従って姥捨てを息子(緒方拳)に迫る老婆役が坂本スミ子さん。息子に背負われて姥捨ての地へ向かうシーン、村からの長い山道が母と息子の最後の時間の場面。〝姥捨て〟という語感からは程遠い必然性(〝自然〟と言っても良い)がリアリティをもって迫ってきた。村の掟という社会性の中で、人間の死はあくまで〝自然〟であることを表現したような。

 

当時、坂本スミ子が老婆役というのが意外だった。僕の中では、坂本さんは歌手の印象しかなかったし、まだお若かった。

 

ちなみに映画音楽は池辺晋一郎による。

知らず知らずのうちに池辺さんの音楽を聴いていたことになる。