クロユリハゼの休日

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# 161 西田哲学との出会い

ひょんな事から西田哲学に触れることになった。

年末年始に読む本を本屋で探していて、生物学者福岡伸一氏の著書が目にとまった。

 

福岡伸一、西田哲学を読む』

  〜生命をめぐる思索の旅〜 

         小学館新書(2020)

 

福岡さんの著書は、『生物と無生物のあいだ』『世界は分けてもわからない』などを以前から読んでいた。氏の専門である分子生物学の研究テーマを中心に、自身を含むさまざまな学者の研究を通して新たな発見が積み重なるさまをストーリーとして語る本だった。文章力、構成力が素晴らしく、情景描写なども印象的で、単なる科学書ではなく文学として読める。

氏の〝動的平衡〝論も興味を持って馴染んでいたので、福岡さんの生命観から西田哲学に迫る企画、これは面白そう。

 

難解な西田哲学に迫るため、西田幾多郎に精通する哲学者、池田善昭氏と福岡氏の二人がメールのやりとりをしながら膨大な対話を重ねた記録でもある。二人の苦闘ぶりを伺うことで、学者の探究心というものにも触れ得た。

 

西田哲学の深い森のうち、生命論や時間論が福岡さんの〝動的平衡〟論の生命観や時間論と一致するという。…なので、僕自身は思いがけず〝動的平衡〟論から西田哲学の中核に、いわば容易く(スキップして)近づくことができた。

 

西田哲学の根幹にヘラクレイトスのピュシスの思想の流れがある、というのも新鮮だった。ピュシスはデカルトやカントのロゴスの思想と対比される。ピュシスの重視というのは僕自身にもマッチする考え方でもあるので、この本を通じて西田幾多郎がとても身近な存在に。

 

福岡さんによる西田哲学の翻訳の試み、二人の対話による〝存在〟と〝実存〟の考察など、刺激に富む内容。西田幾多郎の文章を直接読んでも、たぶん何も分からなかっただろう。出版していただいたことに感謝。

 

 

西田幾多郎の哲学を勉強する時間をもちたい。」と合唱団を退団したHさん、この本、読んではるかなあ。

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