クロユリハゼの休日

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#83 『秋霜烈日』 ‐ 検事総長の回想‐

検事総長まで務めた伊藤栄樹氏の病床回想録。

以前、古本屋で買って読んだ。今は手元にない。

ネットで調べると、〝巨悪と闘い、がんと闘った「ミスター検察」。戦後の政財界の重大事件のすべてを見てきた硬骨漢が、迫り来る死をみつめながら綴り続けた戦後史の「真実」〟とある。

細かな記憶はないが、検事総長というのは肝が座っているなあという読後感があった。当時、検察に対する信頼をある程度持てた気がする。

 

検察には〝検察官一体の原則〟がある。個々の検察官が様々な見解を持とうと、組織としては一つの見解しか表に出せない。検事総長の責任は極めて重い。近頃は検察の不祥事が表に出たり、政権がらみのあれこれで検察への信頼は〝秋霜烈日〟の頃より落ちている。

そして今、政権与党は検察庁法改正をはかろうとしている。

昨日の朝刊。元検事、元法務省官房長の堀田力さんが論考を寄せている。

〝私の経験から言えば、政治家がその権力を背景に捜査に圧力をかけてくることはよくあります。それでもひるまずに真相を解明しようとする気概のある上司が多かった。組織のトップたる総長や検事長には政治の不当な圧力に対抗できる胆力が求められ、その人事が政治家の判断にかかるようなことはあってはならない。〟

堀田さんの言う〝胆力〟のある上司とは、〝秋霜烈日〟の伊藤栄樹氏も念頭にあるはず。

伊藤栄樹氏は病気のため1988年3月に検事総長で退官し、病床で回想録を綴り同年5月、63歳で亡くなっている。f:id:kuroyurihaze:20200515002117j:image