クロユリハゼの休日

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# 190 〝四つの諷刺的な歌〟

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畑中良輔(1922-2012)はバリトン歌手。声楽の分野の大御所先生である。

今日、聴きに行った演奏会[福井雅志バリトンリサイタル@ザ・フェニックスホール]のプログラムの曲には作詩者として名前が載っていて、彼は詩人でもあったと知った。なかなか機智にとんだ愉快な詩で、そのことが意外でもあった。(歌手の言葉や表現が明瞭で詩の言葉を聞き取ることができた。)

…というのも、畑中良輔氏は僕が今まで指導して頂いた指揮者の中でぶっちぎりでコワイ方だったから。大学の男声合唱団にいた頃、この高名な声楽家、指揮者、教育者(東京芸大教授)が客演指揮者として東京から招かれた。演奏会までに(たしか)二回、練習場に来られてドボルザークの合唱曲を指導されたのだが、極めて厳しい練習で、こちらを睨まれると震え上がるほど。皆、全集中、である。とてもコワイのだが、流石に指揮は素晴らしく、(ご体格からは想像できない)軽やかで舞うように指揮される姿には魅了された。練習以外ではお人柄に接する機会がなかったので、〝コワイ〟印象しか残っていなかったのだ。

実際のお人柄は、〝四つの諷刺的な歌〟の詩のように軽妙で機智とユーモアに富む方だったようだ。また、後進の指導や日本歌曲の普及に精力を注がれるなど音楽界に巨大な遺産をのこされた方だと再認識した。

今日の演奏会は、こうした畑中良輔氏の遺産、というか、遺伝子を継承する意図をもつプログラム。畑中氏が遺した歌曲表現の良き部分がにじみ出るリサイタルだったと思う。