クロユリハゼの休日

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# 191 〝ぞうさん〟

パラリンピックが終わったようだ…。

 

『まどさんのうた』は、まどみちおさんと交友があった阪田寛夫さんの著書。[童話屋:1989年]f:id:kuroyurihaze:20210906192301j:image

阪田寛夫さんは〝サッちゃん〟を作詞された方。はじめは、まどさんをふしぎな人だなあと感じ、次第に巨大な〝まど山脈〟の懐に入るような気持ちになったという。この著書では、まどさんの詩(童謡)をひとつひとつ紹介しながら、その詩についてまどさんと交わした会話や、まどさんの人生(経歴)、エピソードも紹介している。長い交友を通じて探ってきたまどさんの思想を伝えてくれる本。

團伊玖磨作曲〝ぞうさん〟を初めて聴いたとき、一点の暗さもないよろこびのうた、はるかな国から届いた贈り物と感じた阪田さん。

何年も経ってから、〝ぞうさん〟の詩の意味を解釈するひとが現れだして驚いたという。

…そこで、まどさん本人に伺った。少し長いが、まどさんの言葉を引用してみる。

 

〝…ぞうの子は、はなが長いと悪口を言われた時に、しょげたり腹を立てたりする代わりに、一番好きなかあさんも長いのよ、と誇りをもってもって答えた。それは、ぞうがぞうとして生かされていることが、すばらしいと思っているからです。だからこの歌は、ぞうに生まれてうれしいぞうの歌、と思われたがっているでしょう、と。〟〝…目の色が違っても、髪の色が違っても、みんな仲良くしよう、などとよく言われますけれども……私はそうではなくて、目の色が違うから、肌の色が違うから、すばらしい。違うから、仲良くしようというんです。〟

 

 

まどみちおは、蚊や蟻などの小さな生き物、つけもの石や椅子などのモノ、りんごやするめなどを題材に、存在そのものを肯定し、人間として生きる〝わたし〟と同列に置いて、互いに見つめあう詩(童謡)を書き続けた。無駄を省いた平易な言葉は、考えぬかれた言葉であり、似ているように見えて実は同じものはひとつとしてない。

 

ぞうさん〟は、70年前に書かれた。

第1回パラリンピックが開催されるより前の童謡である。