クロユリハゼの休日

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#76 チンアナゴ[狆穴子]

コロナ緊急事態宣言、閉館中の東京の水族館がチンアナゴ水槽にモニターを何台か取りつけた。一般の人々がチンアナゴとビデオ通話ができるイベントをするためとか。人を見ても怖がらないようにすることが目的という。はじめは何のことかわからなかった。

ニュース映像を観てわかったこと。水族館のチンアナゴは人間に見られることに慣れ、砂に隠れることなく常時姿をさらしている。中には、完全に穴から出て全身を見せているチンアナゴさえいた。 

ところが、長期に亘る休館で本来の繊細さを取り戻し、人が近づくと穴に隠れるようになったのだ。これでは水族館のチンアナゴとして相応しくないということらしい。

 

f:id:kuroyurihaze:20200503153927j:imageチンアナゴサンゴ礁周縁の潮通しの良い砂地にいる。何十匹ものチンアナゴが、流れ来るプランクトンを食べるため砂地から上半身をのり出して林立し、同じ方向にパクパクするさまを観ること、これはスキューバダイビングの楽しみのひとつだ。

ただ、不用意に近づくと一斉に穴に引っ込んでしまう。繊細なのだ。間合いをとってしばらくじっとしていると、ニョキニョキと頭を伸ばしてまたパクパクはじめる。こちらが動くと引っ込もうとする、また警戒を解いてもらうためじっとする。チンアナゴとの距離と時間、この間合いを探ることがチンアナゴ観察の醍醐味でもある。水納島や座間味の海で何度となくチンアナゴの林立を見てきたが、チンアナゴが全身を晒す姿を見たことはない。

f:id:kuroyurihaze:20200503153850j:imageこうして見ると、水族館の環境がチンアナゴにとってかなり特殊であることがわかる。その特殊さ故に最初、ニュースの意味が理解しにくかったのだ。

他の動物園でも、飼育員が近づいただけで「あれ、人間がいる。」みたいな表情を見せる動物がでてきている、そんなニュースも伝えられてきた。長期休館で動物達の野生が少しずつ回復しているようだ。f:id:kuroyurihaze:20200503153955p:image

ちなみに、写真家〝キンドン〟こと井上慎也さんがチンアナゴを撮影するとき、カメラを砂地にセットしてタイマーを設定してシャッターを切り、その場を離れる方法をとったと、どこかで聞いたことがある。