クロユリハゼの休日

やま とり うた みる きく よむ うみ など

# 200 〝芸術は呪術だ〟岡本太郎

午前中に大阪日本民芸館(三代澤本寿展)、午後は万博記念公園内でバードウォッチング、そして予約していた〝太陽の塔〟を見学した。

僕は半世紀前の大阪万博には学校の遠足で行った世代。家からも一回、〝月の石〟を見た。…が、岡本太郎の〝太陽の塔〟という存在にきちんと向き合ったのは今日が初めて。

破壊を免れた〝太陽の塔〟の内部が荒れ果てた廃墟になっているというニュースを数年前に見た。岡本太郎が何を表現したのか、一体、あの中身はどんな様子だったのか興味を持った。残念なことに地下空間は埋められたそうだが、現代に再現された世界は〝太陽の塔〟の内部エネルギーを伝えてくれた。内部には〈生命の樹〉が成長していて、下部から上部へと登って見学する。人類の誕生より上部は遥か太陽。太陽のエネルギーによって生命の樹の歴史が創造される。そうか、だから〝太陽の塔〟!

初めてわかった。

塔内には原始のエネルギーを感じさせる音楽。当時のまま、黛敏朗の作曲だそうだ。ストラヴィンスキー春の祭典〟の舞踏を想う。下りは無味乾燥な通路のような階段なのだが、最後の方の壁面に岡本太郎の言葉が。

〝芸術は呪術だ〟

塔から出ると、どくどくと感慨が湧いてきた。あの時代、〝人類の進歩と調和〟を掲げた万博で岡本太郎の〝太陽の塔〟の存在を現出させた時代の懐の深さを。そして、薄っぺらなテーマに真っ向対峙させて会場全体を睥睨する〝太陽の塔〟の意志を。僕は今日、岡本太郎の呪術を体感したと言って良い。

奇しくも、その夜のNHKでEXPO'70の舞台裏、光と影をテーマにした番組を観た。岡本太郎自身が太陽の塔について、〝生命の根源を考えよ〟、〝人類の進歩と調和〟へのアンチテーゼだと言い切っていた。ある研究者は、EXPO'70から半世紀が経ち、東日本大震災原発事故を〝人類の進歩と調和〟の崩壊といい、ある研究者は、〝人類の進歩と神話〟と言い換えていた。

…これは岡本太郎の呪術なのか予言なのか。f:id:kuroyurihaze:20211212012002j:image

太陽の塔の背面には〝黒の太陽〟が描かれている。見学者用パンフには〝黒の太陽〟は過去を表すと記されている。(パンフには〝黒の太陽〟の写真さえない。いちばん大きな太陽なのに…)

そうではなかろう、と想う。

〝黒の太陽〟は過去から現在、未来までも覆う〝呪い〟だ。

しかし、塔の真下から見上げると〝黒の太陽〟の眼差しは優しく我々を見下ろしている。人類を呪縛するという意味でなく、岡本太郎が過去・現在・未来を俯瞰して、岡本亡き後にも〝黒の太陽〟を見上げる人に向かっての眼差しと解釈したい。

万博公園の森林の通路脇には嘗てのパビリオンがあった場所を示す銘板が埋め込まれている。まるで墓標だ。バードウォッチングができる森と唯一生き残った〝太陽の塔〟。これこそが〝人類の進歩と調和〟を象徴しているように思えなくもない。

 

EXPO2025。テーマは〝いのちの輝き〟だそうだ。単なる経済と観光の起爆剤ではさびしい。少なくともEXPO'70の影の部分も学んでほしいと思う。

プロデューサーには福岡伸一をはじめ、錚々たる名前が連なる。岡本太郎のようなプロデュースとは違った形でもいい。…が、半世紀後に〝呪術〟がかかっていたことがわかるような面白い仕掛けがあればなあ…。

f:id:kuroyurihaze:20211212012117j:image