歌人 馬場あき子の日々を一年間(93〜94歳)追ったドキュメンタリー映画(田代裕監督)を観た。(第七藝術劇場)
「朝日歌壇」の選者を45年間、95歳の今も現役の馬場あき子。何度か僕の短歌を選んでくれたのでどんな方か興味があった。
映画の冒頭が、その「朝日歌壇」の選歌を自宅でしている場面だった。(コロナ禍のため自宅で。通常は新聞社に選者が集まって行う。)投稿された葉書2000枚あまりを二時間程で25首に絞り込み、翌日10首を決めるという。映画では新聞社での選歌風景もあった。選歌の基準を問われてだいたい次のように語られた。
「〝現前(眼前?)〟の出来事であること。そして、それが過去の自分の文学、音楽、‥…など(経験や知識、思想などのことかな。)と共鳴しているかどうか。そこに抒情(叙情?)があること。」
なるほど‥。
ちなみに、馬場あき子選の僕の短歌は次の三首。
↓
・白鷺は古墳の濠に降り立ちて古代と同じ振る舞いをする
・カブトムシの匂いが覚ます少年時ブドウ畑は酸っぱくありぬ
・空き缶の中にヤモリは潜みたり卵の殻と同じ数だけ
この映画で、馬場あき子が能の世界でも活躍されていることを知った。弟子入りして80歳過ぎまで能を舞っていたそうだ。新作能を書いてその上演に立ち会う場面もあり、馬場あき子にとって歌と能は〝不即不離の関係〟。能や狂言の舞台場面が何回も挿入されていて、能への興味も触発され、映画としても奥行きが出ていた。
そして、何より馬場あき子の語り、対話、解説など、話しぶりがとてもおもしろいしわかりやすい。90歳代にして脳の推進力がずんずん伝わってきて爽快。
(日常の会話で、〝立っていると足が痛む〟と言って〝この薬5分で効いてくるのよ、ロキソニン。〟と言って服薬する場面、共感‥。)
映画のタイトル、〝幾春かけて老いゆかん〟は、第五歌集の中の一首から。
さくら花幾春かけて老いゆかん身に水流の音ひびくなり
※映画タイトルの書は金澤翔子。