クロユリハゼの休日

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#60 『発注 いただきました』朝井リョウ

f:id:kuroyurihaze:20200412000232j:image作曲家の池辺晋一郎氏(合唱団では先生という敬称をつける)は夥しい数の映画音楽や劇音楽、大河ドラマのテーマ音楽などを手がけておられる。以前、合唱団で池辺先生と会食する機会があった。前々から知りたかったことを質問した。すなわち、映画音楽など以外の、交響曲室内楽など所謂〝純〟クラシック音楽の場合、作曲の動機は何なんですか、という疑問。先生のお言葉は単純明快。「全部、注文ですよ。」そうか、交響曲も受注生産なのかと意表をつかれた気分。

詩人の谷川俊太郎さんの朗読ライブを聴きに行った時も、谷川さんは「注文があるから書くんですよ。」みたいなことを言っておられた。昔の話だが、手塚治虫から鉄腕アトムの主題歌の注文を受けて作詞したが、ギャラをもらい損ねたという話もあった。

お二人のような大家は注文が途切れることなく創作活動ができるけど、そうでない芸術家と同じにして良いのかどうか。芸術家という妙な固定観念(イメージ)に囚われていないか自問する。

f:id:kuroyurihaze:20200412000536j:image朝井リョウの『発注 いただきました!』は、文筆家(小説家)の受注生産の過程を表に出すという企画にひかれて購入した。発注元と発注内容が明らかにされて、それに応えた朝井リョウの文章、そして朝井リョウ自身による評価(注文に応えているか)がセットで二十編の文章が収録されている。

小説家の仕事、生活の一端がうかがえる企画、池辺先生や谷川さんの仕事を想像しながら読んだ。