クロユリハゼの休日

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# 204 〝音の記憶〟

先日、関西フィルの演奏会へ。お目当ては、ガーシュインのピアノ協奏曲(へ調)である。ガーシュインならでは、ピアノも管弦楽もジャジィーな大曲。ピアノはジャズピアニストの小川理子さん。期待に違わない演奏、やはりガーシュインの曲はジャズピアニストが似合う。

実は、小川理子さんのガーシュインは今回2回目である。

前回も関西フィルの演奏会で、ガーシュインの〝ラプソディー・イン・ブルー〟だった。二、三年前の演奏会と思っていたが、彼女の自伝的エッセイを読むと2014年のことだと分かった。

そう、文芸春秋社出版の小川理子の自伝的エッセイ本が〝音の記憶〟(2017年)である。今回の演奏会後に購入して読んだ。f:id:kuroyurihaze:20220220224042j:image

この本の副題は〝技術と心をつなげる〟という。そのこころは…。

小川理子さんはジャズピアニスト以外の顔がある。理工系の学部で音響を研究して卒業後、希望していた松下電器の音響研究所に配属され、高級オーディオの研究開発に携われたのだ。あの往年の高級オーディオブランド〝テクニクス〟の時代にその中枢にいた方ということ。

その後、時代の変わり目に音響研究所はなくなり、小川さんは他の部署を渡り歩くことになる。その間にジャズピアニストとしての評価を海外でも高めて、一時はプロに専念するか葛藤されていた。

時代はさらに変わり目を迎え、パナソニックは嘗ての高級オーディオブランド〝テクニクス〟の復活を決め、その責任者に小川理子が任命されたのだ。一度歴史の途絶えた技術を復活するまでの困難の数々が〝音の記憶〟で語られている。

僕が〝ラプソディー・イン・ブルー〟を聴いた2014年はその怒涛の日々の真っ只中であったのだ。そういえば、あの演奏会で指揮者の藤岡幸夫さんが〝小川さんは会社からリハーサルに来て、リハーサルが終わったら会社に戻ってお仕事、本番の後も会社に戻るんですよー。〟と紹介していた。

テクニクスの音響製品は、小川さんの音審査に合格しないと製品化されないそうで、それが技術者にとって最難関だそうだ。

僕はジャズピアニストの小川理子さんのファンになったが、〝音の記憶〟を読んでからは一気に〝テクニクス〟のファンにもなった。

テクニクス〟の製品、ひとつ手にしてみようかな。