クロユリハゼの休日

やま とり うた みる きく よむ うみ など

# 246 オスロ・フィル

10/22(日) フェスティバルホール 

指揮:クラウス・マケラ

ピアノ:辻井伸行

【プログラム】

ショスタコービチ 祝典序曲  

ショスタコービチ ピアノ協奏曲 第2番

リヒャルト・シュトラウス 

   交響詩 「英雄の生涯

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オスロ・フィルの演奏会は、1996年以来の二回目。一回目もショスタコービチのピアノ協奏曲があり、その時は第1番だった。ショスタコービチはピアノ協奏曲を二曲しか書いていないので僕は両方をオスロ・フィルで聴いた事になる。前回の指揮は故マリス・ヤンソンスオスロ・フィルを世界有数のオーケストラに鍛え上げた指揮者だ。その時のメインがレスピーギ「ローマの松」で、クライマックスの最強音の一撃で僕の前の席のおじさんのお尻が10cmくらい跳び上がった(ように見えた)。おそらくウトウトされていたのだろう。このおじさんのおかげでオスロ・フィル「ローマの松」の演奏はしっかり記憶に刻まれた。

 

ショスタコービチの作品を実演で聴く機会は今までそう多くはなかった。少し前から実演に接するように心がけていて、特に15曲の交響曲のうち9番以降に注目している。ショスタコービチを得意とする指揮者として知られる井上道義が来年限りで現役引退を表明しているので、これから彼が指揮するショスタコービチは全部聴きたいくらいに思っている。

数ある作曲家の中で天才性を最も感じるのがショスタコービチ。作曲の腕っぷしが格段に強い、と思う。

 

さて、

今回のオスロ・フィルで注目されるのはフィンランド出身の若き指揮者クラウス・マケラ。二十代にしてオスロ・フィル、パリ管弦楽団アムステルダム・コンセントヘボウという三つの名門オケを率いているのだから相当の才能の持ち主であることは疑いない。若々しい才能に接すると自分も元気になれる、僕もそういう年齢になっている。指揮者は80代くらいまで活躍する人が珍しくない。半世紀後のマケラはどんな巨匠になっているだろう。

 

今日のピアニストは辻井伸行。彼の表現は力強い。説得力があり、納得・安心の演奏を聴かせてくれる。若くしてカリスマ性も備えてきていると感じた。

 

 

 

# 245 せかいのおきく

f:id:kuroyurihaze:20231020202520j:image淡野史良著「人間らしく生きるなら江戸庶民の知恵に学べ」(河出書房新社2000年)の最後の方に江戸の屎尿(うんこ・おしっこ)事情について記述がある。屎尿は周辺の農村の畑に施される肥料として経済的価値が高かった。故に、屎尿は高値で取引されていたという。屎尿にもランクがあり、江戸城武家屋敷のトイレの屎尿は高く、最低は囚人牢の屎尿。やはり、食事が豊かな人の屎尿は農作物の育ちも良く、ブランド力が強かったという。そして、屎尿を買って農家に売る屎尿流通に関わる職業もあったのだ。ちなみに、長屋の共同トイレの屎尿は大家が権利を持っていて、屎尿売却よって得られる収入は家賃収入の額に匹敵したという。

屎尿の流通を通じて関係を結んだ武家と農家の間で縁談が成立したといううろ覚えの知識が僕にはあるのだが、この本にその記述はなかった。また別のところで得た知識のようだ。

このような知識から、映画「せかいのおきく」に興味を持って上映会に行ってきた。(すばるホール

 

阪本順治監督の映画「せかいのおきく」はこうした仕事(屎尿の収集・運搬・売却)をする〝汚穢屋〟の青年と元武家の娘で今や没落した長屋住まいの〝おきく〟を中心に展開する物語。〝おきく〟を黒木華が演じている。〝汚穢屋〟の青年〝ちゅうじ〟は、〝おきく〟の長屋に出入りする業者として知り合うわけだ。

この映画、大半がモノクロ映像だが、とにかく屎尿映像の場面が多いので好みが分かれるかもしれない。〝おきく〟は声を失うので台詞が途中からなくなる事もあるが、映画全編、どの役者も台詞は簡潔。物語の展開や音楽も抑制が効いて淡々としていた。また、長屋暮らしの人々の生活がリアルで面白い。鑑賞者は、うんこ・おしっこを介して江戸の人々の日常や制度を見る視点を与えられると思う。

 

阪本順治監督は堺出身。高校の1学年下の同窓なので何かと気になる存在だ。

 

さて、

屎尿が肥料として使われるというのは、僕らの世代までは馴染みがある。小学生の頃、学校への通学路は田んぼの中の細い地道で、道のそばには屎尿を溜めた〝のつぼ〟がいくつもあった。家畜はすでに使われていなかったので、おそらく人糞を溜めたものだったろう(?)。通学路の思い出は〝のつぼ〟から放たれる臭いとともにある。

 

祖父母の家の庭の木の陰には大きな甕が埋められていた。実際に見たことはないが、祖母は時々そこで用を足していたらしい。母から聞いた記憶があるのでたしかだ。人間の屎尿を肥料として使うのは当たり前だったのだ。

 

映画でいくら屎尿の場面があるとはいえ、〝臭い〟はない。あたりまえだけれど…。

以前、沖縄のひめゆり学徒の生存者の話を聞き取る記録映画で生存者が語っていたことを思い出した。ひめゆり学徒の悲劇は何度か映画化されているが映画には〝臭いはない〟。野戦病院となった壕(ガマ)の中は、凄まじい悪臭だったと。化膿した傷口、腐敗した遺体、屎尿の臭いなどが混じり合った臭いだろうか。

 

水洗トイレが普及して清潔、衛生的となった現代日本社会。屎尿は下水道を流れ浄化処理される。

うんこ・おしっこのリアルを考えさせられた〝せかいのおきく〟映画会だった。

 

 

 

 

 

# 244 四国山旅 石鎚山

石鎚山(標高1972m)】※天狗岳は1982m↓f:id:kuroyurihaze:20231017213048j:image

石鎚山を気に留めたきっかけは、おそらく、天童荒太の小説「永遠の仔」(1996年)。石鎚山が小説の舞台として登場していた。ハードカバーの新刊小説を買って読むことは稀だが、「永遠の仔」はカバー写真に彫刻家の舟越桂の人物彫刻があしらわれていたので、いわば、衝動買い。f:id:kuroyurihaze:20231017213505j:image舟越桂の人物彫刻は国立国際美術館で所蔵作品を初めて見て衝撃を受けた。f:id:kuroyurihaze:20231017213701j:imageその後、舟越作品に入れ込んでしまい、高松市美術館東京都庭園美術館で開催された個展にも足を運んだ。

さて、「永遠の仔」を読んでから、石鎚山に登ってみたいという気持ちは細々とではあるが持続していた、と思う。

それが、先週、徳島県の剣山に登ったことをきっかけに、〝次は石鎚山〟との思いが強くなった。来年の紅葉シーズンに登ろうと妄想するうちに、〝いや、今年の紅葉を見に行こう〟となってしまった。YAMAPの活動報告を覗くと、山頂は今まさに紅葉のピークではないか。

幸い平日三日間に予定がなく天気予報もバッチリ。日程・天気予報・紅葉🍁の三拍子が揃った。大阪・愛媛間を結ぶフェリーを利用しての船中二泊日帰り登山の弾丸ツァー。

登山コースは土小屋から稜線を伝う負荷の少ないコース。膝痛、腰痛が少しあり、最近とみにバランスが悪くなっている。鎖場は避けて巻道をとり、岩伝いの天狗岳は見るだけ〜、の安心コース。

絶好の登山日和となり、山頂部の紅葉が、空の青、笹や常緑樹の緑、と混ざり合って紅く輝いていた。f:id:kuroyurihaze:20231017212925j:image

※下山後、松山道後温泉へ移動。

道後温泉本館は高校生の時に友人と本館前まで行ったが、風邪気味だったので入浴はパスした思い出の場所。現在、本館は本格的な保存修理中。宇和島在住の大竹伸朗デザインに半分以上覆われている。f:id:kuroyurihaze:20231017214615j:image

また、道後温泉別館飛鳥の湯の広場は全面が蜷川実花の写真(陶板?)で覆われていた。f:id:kuroyurihaze:20231017214845j:image

 

# 243 次郎笈(じろうぎゅう)

初めての四国山旅。

次郎笈〟(標高1930m)という何だか物語がありそうな山名。写真で見た笹原の稜線と山容に惹かれて…。f:id:kuroyurihaze:20231012222921j:image↑剣山からの次郎笈。(山頂の雲は結局一度も晴れなかった。)

〝笈〟とは、修験者などが仏具・衣服・食器などを収めて背に負う箱とのこと。山容を荷物を背負った修験者に見立てたのだろうか。〝次郎笈〟があるのなら〝太郎笈〟は…? 稜線で隣り合う徳島県最高峰の剣山(1955m)が〝太郎笈〟だそう。

一日目に見ノ越から剣山頂ヒュッテに登り、二日目に剣山から次郎笈への笹原の稜線を歩いた。f:id:kuroyurihaze:20231012221003j:image山小屋に泊まるのは久しぶり。夕食にアマゴの唐揚げや手作りこんにゃく、美味しかった。夕食時、山頂付近はガスの中。しかし、深夜(1時半頃)は満天の星で天の川も見えた、…とは、その時間に外に観察に出たという同宿の方のおはなし。日の出前に東の空を望むバルコニーに行くと少しオレンジに染まり始め、直後、またガスの中に。…残念。f:id:kuroyurihaze:20231012221717j:image

山頂近くは一部紅葉が始まっていた。見頃は近い。

 

※下山後、吉野川沿いの藍住町に移動。〝藍の館〟で藍染体験をした。(手ぬぐい)f:id:kuroyurihaze:20231012222715j:image発酵した染液に布を浸し、空気に触れると酸化して藍に染まる。不思議体験。

 

 

 

# 242 落葉松

東京混声合唱

10/8(日)  フェニーチェ堺 特別公演f:id:kuroyurihaze:20231008233950j:image

地元の合唱団との共演曲も含めて、合唱愛好者にとって馴染み深い曲や東混の十八番など盛りだくさんの選曲。客席も一体となって合唱を楽しむ雰囲気になり盛り上がりをみせた。僕自身も合唱団で過去に歌った曲が多くて楽しかった。

東混が歌うと、〝こんな曲だったんだ!〟と曲の素晴らしさに改めて気がつくことがある。

今日の演奏会では〝落葉松〟(小林秀雄作曲)が特に印象に残った。ピアノ伴奏が三連符を刻みながら淡々と進む四拍子の曲なのだが、最強音の厚みが予想外に大きく、その最強音部分で一箇所あるフェルマータの効果が素晴らしかった。その後のコーダ部分の最弱音との対比が際立って、東混のpppを堪能した。また歌う機会があったら、あんな音色で、スケールの大きい〝落葉松〟が歌えたらいいなあ…。

 

※〝落葉松〟をいつ歌ったのか確かめたら、18年前の定期演奏会でした。

 

# 241 わたしの家

この夏、スウェーデンのダーラナ地方に数日滞在した。広大な森林に湖が点在するダーラナ地方の小さな村、スンドボーンという所に国民的画家といわれるカール・ラーションの住居があり公開されていた。(ガイドツァーに参加して見学。住居内撮影不可。)

http://www.carllarsson.se/wp-content/uploads/2019/06/CL-Soundborns-ny.mp4

カール・ラーションはこの家の室内や庭を舞台に描いたシリーズを画集〝わたしの家〟として出版して人気を博したという。明るい色調の水彩画で、輪郭を黒い線で描いたのは浮世絵の影響らしい。画家でもあった妻が室内の調度を工夫したり壁画を描いたりしている。夫婦が時間をかけて手を入れ、趣向を凝らしたたくさんの美しい部屋。そこで育つ子どもたちも描いた〝わたしの家〟は幸福感に溢れている。

住居見学の折には、僕はまだカール・ラーションも〝わたしの家〟も知らず、とりあえず隣接したアートショップで〝わたしの家〟シリーズの中の一枚(印刷物)を購入した。f:id:kuroyurihaze:20230929150118j:image

カール・ラーションへの興味が増しラーション家族が住んだ村をもっと知りたくなったので、二日後に再びスンドボーンを訪れた。水辺や運河(?)、村の教会などを結ぶ散策コースを美しい村の家々を見ながら歩いた。途中から降雨となりショートカットせざるを得なくなり残念だった。

こうなると、カール・ラーションの〝わたしの家〟の原画を見たくなる。ストックホルムに戻って帰国前日に国立美術館を訪ねた。美術館の大階段から見渡せる両側の壁面にいきなりカール・ラーションの大壁画。f:id:kuroyurihaze:20230929150147j:imageさらに探し回ると一角にカール・ラーションのコーナーがあった。期待通り〝わたしの家〟原画が6点展示されていて、その中にアートショップで購入した一枚も展示されていた。f:id:kuroyurihaze:20230929150247j:image
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スウェーデンのひとりの画家を知ったことは、旅の良い思い出になった。購入したラーションの絵(印刷物)は、帰国してから額装して我が家の食卓の壁面に飾ってある。f:id:kuroyurihaze:20230929150118j:image

# 240 蔵王 どっこ沼

混声合唱組曲蔵王」(佐藤眞作曲、尾崎左永子作詞)を合唱団で全曲歌ったのは2007年。1961年に作曲されているので、もう半世紀以上広く歌われてきた混声合唱組曲

その第四曲〝どっこ沼〟は、作曲者が〝素朴に温かく〟と指定しているように親しみの湧く愛らしい曲。「蔵王」といえば〝どっこ沼〟がまず思い浮かぶ。いつからこの曲を知ったかは定かでない。…中学生くらいかな。f:id:kuroyurihaze:20230914135742j:image

今回、山形の山旅を計画する際に登山地図の中にどっこ沼を見つけたので、ぜひ行ってみようと思った。実は、(恥ずかしながら)蔵王岩手県の山と思い込んでいた。山形・宮城県境の山と知ってなんだか新鮮。

蔵王」の楽譜を引っ張り出して見てみると、見開きに斎藤茂吉の短歌がひとつ…。

〝みちのくをふたわけざまにそびえたまふ蔵王の山の雲の中に立つ〟

茂吉の故郷は蔵王の麓、上山(かみのやま)ということも初めて知った。混声合唱組曲蔵王」は、歌人斎藤茂吉へのオマージュ作品でもある。[茂吉の故郷は雲の下↓]f:id:kuroyurihaze:20230914141523j:image

どっこ沼へは、ロープウェイ地蔵山頂駅から蔵王古道を下った。地蔵山のトドマツ林は立ち枯れで無残な姿f:id:kuroyurihaze:20230914142635j:image途中、スキーゲレンデを横切って片貝沼・うつぼ沼の辺りは美しいブナ林。

斎藤茂吉の歌碑もいくつかあった。f:id:kuroyurihaze:20230914142218j:image

到着したどっこ沼には誰もいなかった。湧水で涸れることがないというどっこ沼のほとりには水神がささやかに祀られていた。f:id:kuroyurihaze:20230914143012j:image

さて…、〝どっこ沼〟の歌詞には〝🎵まつぼっくりころがれ 沼の中に沈め とろり光れば 雲うごく〟というリフレインがある。松林に囲まれたイメージを持っていた。…が、沼の周りをしばらく見渡して見たが、松の木は見当たらなかった。f:id:kuroyurihaze:20230914143722j:image

 

【山形の山旅 2023】

一日目:蔵王[刈田岳〜熊野岳]※カルデラ

二日目:月山[リフト上駅から山頂]

三日目:蔵王ハイク[いろは沼][どっこ沼]

 

蔵王山(熊野岳)・刈田岳

https://yamap.com/activities/26688717 #YAMAP #山歩しよう

 

月山 リフト上駅からピストン https://yamap.com/activities/26699831 #YAMAP #山歩しよう

 

蔵王ハイク [いろは沼][どっこ沼] https://yamap.com/activities/26709179 #YAMAP #山歩しよう