クロユリハゼの休日

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# 226 白髪三千丈

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大江健三郎さんの思い出をひとつ。

一度だけ、大江さんの講演を聴きに行ったことがある。確か、岩波書店の主催で大阪のサンケイホールだったかな。僕は大学生か、ひょっとしたら就職していたかもしれない頃。

その講演で大江さんは〝モデル〟という言葉を何回も使っていた。自分なりの世界観のような意味だったと思う。大江さんの語り口はその小説の文体と同じく、僕にとっては難解だった。

もうひとつ、覚えているのが〝白髪三千丈〟。大江さんがこの言葉を使ったとき、会場は笑い声に包まれた。大江さんのフランス文学の師である渡辺一夫のエピソードに絡めて〝白髪三千丈〟を使われた…、と記憶が蘇ってきた。僕は〝白髪三千丈〟の意味と用法が実は分からなかったのだが、笑う場面だということは分かった。大江さんをぐっと身近に感じたので今でも覚えているんだと思う。

僕は大江さんの小説の読者というわけではない。何冊か読みかけたが、独特の文体に慣れなくてきちんとは読み通せなかった。「ヒロシマノート」や「沖縄ノート」は小説よりは読みやすかったと思う。

今なら追悼の気持ちをもって読み通せるだろうか、大江さんの小説を。